介護現場でハラスメントは起こるのか?
高齢化社会に伴い、介護施設や訪問介護など介護関連の職場は増える一方です。
介護職はやりがいの大きな仕事ですが、最近は現場のハラスメント問題が深刻になっています。
これは、最近ハラスメントが発生し始めたのではなく、長年隠れ問題としてあったものが表面化してきているのです。
介護現場では、暴力やハラスメントを受けたと感じている介護職員が多くいると言われています。
介護の施設形態によって違いがあるようですが、介護老人福祉施設がとくに多い傾向にあるようです。
介護現場におけるハラスメント問題はなぜ起こるのでしょうか。
実際にハラスメントを受けても、どこからハラスメントとして捉えてよいのか迷うこともあるでしょう。
どのような言動がハラスメントになるのか、ハラスメントの種類について解説します。
また、ハラスメントを受けたと感じた際の対応策についてもご紹介します。介護職のハラスメント問題で悩んでいる方は、ぜひご一読ください。
参考:厚労省「介護現場におけるハラスメント対策」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05120.html
◇目次
介護職でなぜハラスメントが起こるのか?
介護職で最近問題になっているハラスメント問題は、なぜ起こるのでしょうか。
介護職が関わる利用者さんは、高齢者の方や脳梗塞など基礎疾患があり、身体が不自由なことから介護を必要としている方が多くいます。
このような利用者さんは、認知症を発症している人が少なくありません。
認知症によって脳が機能低下していることから、感情のコントロールがうまくできないこともあります。身体に不自由があることから介護を受けているのに、認知症によって理解できなくなるのです。
それによって嫌なことを無理強いされていると勘違いし、抵抗して暴力行為や暴言を吐くこともあるでしょう。
認知症には合併症があり、幻覚や幻視が起こりやすくなります。そのような症状から錯乱状態に陥りやすく、暴力行為を起こしやすくなることもあるのです。
また、利用者さんは身体の不自由さが年々増え、できないことが増えていきます。
それに対して焦りや不安、さらには恐怖すら感じることがあるのです。その気持ちを解消できずイライラし、それが介護職員へ乱暴な態度として現れることもあります。
とくに排せつや入浴の介助では、高齢者の方にとって苦痛や不快感となり、拒否反応が起こることもあるようです。
また、疾患や年齢的なものから心身共に不調が起こりやすくなります。
そういったときに、不穏状態に陥り介護職員に対して暴力を振るってしまうこともあるのです。
介護職に起こりやすいハラスメントの種類
介護職に起こりやすいハラスメントには、身体的な暴力と精神的な暴力、さらにセクシャルハラスメントがあります。
身体的な暴力では、物を投げつけられたり、叩かれたり、蹴られたり、つねられたりといった行為があげられます。威圧的な行動で、立場の弱い介護職員に過度な要求を求めてくる利用者さんや家族もいるでしょう。
老人介護施設のような職場では、この身体的な暴力が多いといわれています。
入所施設であることから、長期間にわたり身体的な介助を行うため、起こりやすいハラスメントといえるでしょう。
精神的な暴力では、威圧的な態度で怒鳴ったり、理不尽な要求をしてきたり、批判的な言動で、精神的に苦痛を与えられます。
特に教師や校長のような職業だった人に多いのが、介護職を見下した発言です。個人の尊厳や人格を傷つけるようなことを言われ、心に傷を負ってしまう人も少なくありません。
また、特定の気に入った介護職員には愛想よく話すのに、気に入らない介護職員のことは無視をするような行為も、精神的なハラスメントです。
実行が難しいような仕事を依頼してきたり、何度も同じことを依頼してきたりすることもあります。
そのような行為で自信を失わせ、劣等感をもってしまう介護職員もいます。
このような精神的なハラスメントは、訪問看護のような施設で多い傾向にあるようです。
加害者にあたる利用者さんやその家族には、自覚せずに精神的な暴力を振るっている人もいます。
セクシャルハラスメントは、必要以上に体に触れてきたり、性的な話を繰り返しされたりなどの嫌がらせです。
介護職は女性が多く働いており、身体的な介助で利用者さんとの距離が近くなります。そのため、男性利用者さんからセクシャルハラスメントを受けやすいようです。
介護職は、利用者さんに対して強く拒否することができません。そのためセクシャルハラスメントを止めることができず、苦痛に感じている介護職員も少なくないのです。セクシャルハラスメントは、入所施設、訪問介護、どちらの職場でも一定数見られています。
また、女性の利用者さんから、男性職員がいわれのないセクシャルハラスメントを訴えられてしまい悩んでいる介護職員もいます。
ケアとして触れざるを得ないことに対して、セクシャルハラスメントを訴えられてしまうことで精神的な苦痛を与えられてしまう場合もあるようです。
介護士ならではの悩みとは?
介護士の抱える悩みのなかで、介護職は我慢をするのが当然という風潮によっておこる悩みがあります。
介護職は人のお世話をするのが仕事であり、疾患によって身体に不自由、認知症などによって正常な判断や言動ができない方が対象です。
そういった利用者さんから受けた肉体的、精神的苦痛に対して真正面からやめて欲しいとは言いづらい雰囲気があります。さらにそれを問題として、上司に訴えるようなものではないという風潮が少なからずあるでしょう。
また、そういったハラスメントといえるような状況にあったときに、介護のプロとして対応できなければいけないといった空気感が職場にあると、ますます言い出せなくなります。認知症の利用者さんが多い施設では、暴力や暴言は当たり前のように起こっているため、それを一つ一つ相談して解決するのは難しいと思ってしまうのでしょう。
こういった職場の風潮や、上司の考え方、もしくは自分自身がそのような思想であることなどを背景として、身体的、精神的なハラスメントやセクシャルハラスメントを言い出しにくい環境が、長年隠れ問題となっていたと言えます。
実際にあったハラスメントの例
介護の現場において、どのような事例がハラスメントにあたるのでしょうか。
ハラスメントを判断するのは難しいことです。ここでは、実際にあったハラスメントの事例についてご紹介します。
・身体的な介助を行っている最中に強く殴られたり、蹴られたり、つねられたりした。
・介助を行う際に、大きな声で怒鳴られたり、攻撃的な態度を取られたりした。
・サービス契約以上のサービスを強要され、断ると「〇〇さんはやってくれたのに。」などと無理なサービスを強要された。
・学歴について見下され、尊厳をおとしめるような言動をされた。
・介護職員の身体的な特徴を馬鹿にしたり、けなしたりして自尊心を傷つけられた。
・入浴介助や排せつ介助中に、あからさまに体を触られたり、性的な話をされたりした。
・アダルトビデオを見せられたり、性的な誘いをしつこくされたり、意に沿わないことをされた。
このような事例はハラスメントにあたるため、一人で我慢したり抱え込んだりせずに対応が必要になります。
ハラスメントを起こさないための対策
ハラスメントを起こさないために、どのような対策があるのかご紹介します。
対策①ハラスメントに対して我慢しない
介護ハラスメントがエスカレートする原因の一つとして、介護職員が我慢をして問題を表面化させないことがあげられます。
利用者さんやその家族から受けるハラスメントに対して、やめて欲しいという意思を伝えることが大切です。
自分で何とかしようとせずに、上司などへ相談することも必要です。
介護士だけでは解決できないケースもありますから、上司からしっかりと調査をしてもらい、実践的な対応策を講じてもらう必要があります。
2020年より企業におけるハラスメント相談窓口の設置が義務付けられており、中小企業でも努力義務化されています。
具体的な記録を残し客観的な事実を把握してもらえるようにするとよいでしょう。
それでも改善しない場合や上司が真剣に取り合ってくれない場合などは、専門機関を利用することもおすすめします。
専門機関としては、自治体の相談窓口や労働基準監督署に相談するとよいでしょう。無料の弁護士相談を利用する方法もあります。
上司や組織としてしっかり取り組みがされていないケースでは、通達や指導が行われるため、改善に努めてもらえるでしょう。
対策②対応方法を見直す
ハラスメントを受けていると感じた場合、まずは利用者さんの体調を確認します。
体調の異変によって痛みや不快感があり、うまく伝えられないことから暴力的な言動になることがあるからです。
異変があった場合は、早急に対応し体調の異変に対してケアを行いましょう。
しかし利用者さんに異変がない場合は、ハラスメントを受けないための対策として、関わり方などを見直す必要があります。
利用者さんが、ハラスメントと受け取られるような言動を起こす原因がなかったか振り返ってみましょう。
知らず知らずのうちに、利用者さんの心を傷つけてしまっていたかもしれません。コミュニケーションの取り方や、介護の仕方を改善することで、利用者さんの不満を解消できるかもしれません。
また、利用者さんが暴力行為や暴言を吐いてきたときは、冷静に対応するように心がけましょう。
怯えた態度は、余計に状況を悪化させます。一人で対応すると、トラブルに発展する可能性があるため避けましょう。
複数の職員で対応することで、身の安全を確保できますし、利用者さんのリスクも軽減することが可能です。
どうしても一人で対応しないといけないような訪問介護などの場合は、距離を置いた関わり方を心がけましょう。
利用者さんの危険がないか確認しつつ、興奮状態が落ち着くまで離れた位置から見守ることも大事です。
まとめ
ここでは、介護職で起こりやすいハラスメントについて紹介してきました。
介護職におけるハラスメント問題は深刻です。実際に自分が受けている状況が、ハラスメントにあたるのかの判断が難しいからです。
ハラスメントは、性的・暴力的な行為だけではなく精神的な苦痛を伴うものもあります。
ここではハラスメントの種類などについてもご紹介していますので、参照してみてください。
ハラスメントを受けていると感じたら、一人で抱え込まずに上司などに相談してみましょう。
ハラスメントが続くことは精神的な負担になり、退職の原因にもなります。ハラスメントを起こさないための対策を参考に、早めの対応を心がけましょう。
「介護求人ドットコム」なら、介護福祉士の求人を多数掲載しています。勤務時間や地域など、様々な条件で検索できるので、自分に最適な職場を探してみましょう。